[イラストで描く世界史人物伝] Vol.11 ザラスシュトラ

2020年9月29日

世界中に広がっているユダヤ教やキリスト教と行った唯一神を神とする宗教。そんな一神教の原点とも言われているのが古代ペルシアのゾロアスター教だ。今回はそのゾロアスター教の開祖、ザラスシュトラを描く。

ゾロアスター教が世界に与えた影響

ザラスシュトラという名前は世界史に興味がない人はあまり聞かないかもしれないが、英語発音を元にしたゾロアスターという名前であったり、ドイツ語の発音を元にしたニーチェの散文詩「ツァラトゥストラはかく語りき」という書物の名前は聞いたことがある人は多いのではないだろうか。このザラスシュトラは、そのゾロアスターや、ツァラトゥストラと同一人物の宗教家だ。

ザラスシュトラという人物を語る場合、まず先に説明しておかねばならないのが「ゾロアスター教」であろう。ザラスシュトラの英語読みがゾロアスターであるので、ゾロアスター教とは、そのままザラスシュトラ教という意味で、「人名+教」という成語だ。

このゾロアスター教の歴史上の大きな意義は、数ある宗教の中で、初めて唯一神的な考えを唱えた宗教という事だ。ゾロアスター教が登場する以前の原始宗教といえば、そのほとんどが万物に精霊が宿ると考えたアニミズムをベースとした多神教であり、唯一神を信仰する様なものは確認されていない。一方、このザラスシュトラが唱えたのは、それまでの多神教とは一線を画す「アフラ・マズダー」を最高神とする唯一神的な考えを持つ宗教であった。

ゾロアスター教では、この最高神アフラ・マズダーによる世界の創造に始まり、最後には世界の週末が訪れ、そこでは最後の審判が行われ、善は天国へ、悪は地獄へ落ちるとう考えただ。

この様な世界観は、どこかで耳にしたという人も多いのではないだろうか、そう、これはキリスト教、ユダヤ教、イスラム教といった現在世界で広く信仰されている宗教の世界観と非常に良く似た部分があるのだ。

もちろん、この世界観をいち早く唱えたのはゾロアスター教であると考えられており、ゾロアスター教が後に成立するユダヤ教に影響を与え、その教義はキリスト教、イスラム教へと広がっていったと考えられる。

天地創造や、最後の審判、天国と地獄などといったものは、ユダヤ教やキリスト教だけが持つ特徴的な概念だと思われがちであるが、実はこの原点は古代ペルシアのゾロアスター教にあるのだ。

もう一つのゾロアスター教の特徴と言えるのが、この世の中は善と悪の対立であり、最後には善の勝利が約束されているという二元論的考え方だ。

この善と悪の二元論的考えはペルシア戦争などを通じてギリシアへ輸入され、ヘロドトスの書き記した書物「歴史」では、ギリシアが善とされ、ペルシアは悪、歴史とはこの善と悪の対立であり、最後には善であるギリシアの勝利が約束されている考えが根底にある。自身の敵であるペルシアのゾロアスター教の概念から逆転的に影響されている点はおもしろい。

以上の様に日本では非常に馴染みの薄いゾロアスター教であるが、世界に与えた影響という意味では非常に大きな宗教であり、その数は多くはないものの現在も信仰する人々がいる世界最古の現存する一神教なのである。

宗教に身を投じたその人生

この様に今もなお形を変えて現代に大きな影響を残すゾロアスター教であるが、実はその開祖ザラスシュトラの生涯は伝聞や伝説などが多く、史実的な部分は謎なところも多い。

生まれた場所についても諸説あるし、生まれた年代に至っては、最も古いものでは紀元前1700年頃とされたり、新しいものでは紀元前500年頃であるとか、凄まじい開きがある。

ザラスシュトラに関する伝説を簡単にまとめると以下の様な形になる。

ザラスシュトラは古代ペルシア多神教の神官としての教育を幼い頃から受けるなど、どちらかというと宗教エリートとして育った。

20歳を過ぎる頃には立派な神官として働いていたと言われるが、30歳頃に彼は啓示を受けたとして、自分の信仰するペルシア多神教の中の1つの神である、アフラ・マズダーを最高神とする新しい宗教的概念を唱えだす。

しかし当時のペルシア一帯では伝統的な多神教が優勢。やがてザラスシュトラ一派は排斥されだす。

しかし40歳過ぎ頃に当時の統治者に取り入る事に成功し、王族と血縁関係を結ぶなど、強力な政治的後ろ盾を得る。その後はザラスシュトラの唱える新宗教が一気に優勢となっていき、ゾロアスター教としてのコミュニティを確立するに至る。

しかし、ゾロアスター77歳の時、突如として悲劇が訪れる。

ゾロアスター教が政治的に大きな存在となると、それまで国教とされていた古代ペルシア多神教の神官たちは行き場を失う事となり、ザラスシュトラに対する恨みがつのっていく。そういった神官の一人、ブラドレスという男によりザラスシュトラは殺害され人生の幕を閉じるのであった。

以上の様に殺害という形で人生を終える事になったザラスシュトラであるが、キリスト教が迫害の歴史を逃れローマで国教になるまでに長い時間を要した事を考えると、ゾロアスターは生きているうちにその宗教的成功を成し遂げると事が出来た事は非常に運の良い出来事だったと言えるだろう。

今回はこの様なザラスシュトラを、暗殺者に対し最後の瞬間まで、天と地、光と闇、善と悪を説く姿をイメージして描いてみた。

川田 ヒデホ

金沢市在住のイラストレーター。仕事のお話や、取材先での出来事、あまり仕事に関係ないけど個人的に気になった出来事、など色々書いています。 お仕事の事やブログの内容などで気になった事があればブログのコメント欄や、スタジオトップのお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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